2014年7月31日木曜日

新境地

 「マテリアライジング展Ⅱ」が始まっている。昨年に続き、「情報と物資とそのあいだ」について様々な専門家が考察を巡らせる展覧会で、今年はさらに実験的な取り組みがキュレーションのテーマだ。今回は東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科講師の酒井聡さんとの共同制作だ。作品全体を通して宮城県南三陸町の豊かな自然の息吹を伝える「Tele-Flow」という作品を展示している。作品はウルシ樹の生体電位を利用して、宮城県南三陸町ながしず地区に植樹されたウルシをデジタルに移植するという、いわば空間転送の試みで、造形は、ウルシの実木から3Dスキャン・3Dプリントした透明オブジェクトと、葉を模した漆フィルムで構成される。6個のマイクロモーターが実装された葉柄は、植樹地からの信号によってかすかに振動し、南三陸町の豊かな自然の息吹を伝える。数匹のホタルが徐々にその明滅を同期させていくような、自然界には不思議が同期現象が存在するが、これを数理モデル化したことで有名な「蔵本モデル」を応用して、6個のモーターの動きを制御して全体として風になびくような木の動きを作り出している。また、今回は酒井さんのご縁で株式会社JVCケンウッドにもご協力頂き、Forest-Notesのシステムを使って現場の音をリアルタイムに配信している。
 今回の作品がこれまでとは全く異なるのは、「漆の啓発」というハッキリとした目的を持っていることだ。作品は啓発のためのメディアであり、作品そのものにはほとんど意味はない。作品を介することにより喚起される漆をめぐるコミュニケーションこそが目的なのだ。もはや従来的な意味での「作品」という言葉も当てはまらないのかもしれない。これまでの僕の漆の造形作品は、作品そのものにこそ意味があったという点では、別人の作品と言っても良いかもしれない。確かに今回は酒井さんのみならず、プログラマーやマネージャーとのチームワークで、プロデュースとディレクションを担当したという意味では「別人」なのかも知れない。確かなことは、このやり方にとても意義が感じられたということだ。
 この作品を通して、日本の漆の危機的な現状(国産は1%、99%は中国からの輸入)に想いを馳せてもらえればと思う。
http://materializing.org/2014exhibitor/1663

動画はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=11qJadpnHzw&feature=youtu.be

撮影:酒井聡

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